車輪の下

車輪の下 (新潮文庫)

車輪の下 (新潮文庫)

はじめの数十ページを読んで、私は胸苦しさに前に進めなくなった。
「これはわたしのことか?」
 
主人公は少年で、母がなく、優秀に生まれて付いた。
ここが私とは違う。
しかし、周囲の何気ない期待にこたえようとする姿。
それに疑問を持たずに過ぎてしまった少年期。
知らずに溜まりに溜まった歪(ひずみ)。
決壊したダムのように、抑圧された精神を解放させようと大きく揺れ始めた自分の行動、精神、健康状態。
 
「あなたの期待に添えない私は愛されない」
という恐怖に気付き、逃れるのは難しい。
しかし、生き直したいという思いは変わらない。
 
今読んだからこそ響くものがあった。
主人公を取り巻く状況が始めから歪んでいたことに、今なら気付ける。
そして、救いの手があっても気付けない状況であったことも、理解できる。
 
乗り越えようとする精神の持ち主として、強く共感した。
だからこそ、あのラストは悲しい。
 
しかし、これはヘッセの自伝的小説だという。
ならば、ヘッセは乗り越えたのだ。
先を行くものは居たということだ。
抑圧を解放するのは、自分自身と愛情の力が大きい。
古い小説だ。
しかし中身は全く古くない。
 
ちなみに、これを読んで、ヘッセはHSPなんだなぁ、としみじみ思った。