1623年?石畳の広場とジャック

気が付くと、足元は膝丈の黒いブーツ。
黒いズボンをはいて、黒いジャケット、黒い軍隊のような帽子を被っている。
目の前は石畳の広場で、後ろには噴水がある。
石畳の広場の5mぐらい先にはくすんだ赤茶けたレンガ造りの建物がある。
ヨーロッパだろうか。
周辺を歩く人と視点からして、私は痩せ型で、結構背が高いようだ。
左側に、黒い馬車が見える。
心の中に、何も浮かばない。
何も思いつかなかった。
名前もわからないし、年代も思いつかない。
というか、彼は、何にも興味がないようだった。
こんな人間は初めてだ。
どこなのか、何故ここにいるか聞いても、
他の場所に行こうとしても、彼は動かないし
何も教えてくれない。
 
すると突然、目の前にくりくりの金髪の女性が現れた。
私より頭一つ、背が低い。
「どうしたのよ?ジャック」
と私のすぐ傍で私を見上げ、話しかけた。
「ルーシーよ、わかる?」
ルーシーは多分、美人だろう。興味が湧かない。気が強そうな顔だ。
気丈さに反して、パステルカラーの服を着ている。
「今は何年だ」と聞くと、「236年よ」と言った。
真顔だが、からかっているのが判る。嘘だろう。
それを聞いたら、1623、という数字が頭に浮かんだ。
 
場面が変わり、私は枯葉の上に倒れていた。
雨が降った後のような湿った枯葉の上に大の字になっており、
左の肋骨の下にサーベルのようなものが地面に垂直に刺さっている。
私は、殺されたのだろうか。まだ意識がある。
視界に目をやると、嬉しそうににやりと笑うルーシーが見えた。
もう一人、黒っぽい格好の男が見えるが、顔がわからない。
「ざまあみろ、いい気味よ」
ルーシーは本当に嬉しそうだった。
私はそのまま死んだようだ。
しかし、憎しみも悲しみも、何も心に浮かばなかった。
死んだのか、と思っただけだった。
 
また場面が変わり、石畳の広場にいた。
髪を真ん中でぴっちり分け、口髭を左右にぴんとはねさせた、目つきの険しい男性が私に向かってやってきた。
自分に似た、黒い格好をしている。
彼を黒い馬車に乗せ、私は屋敷に向かった。
この男性は私の主人のようだった。
しばらくすると、小さな城のような屋敷に着いた。
着くと、主人を迎えに彼の娘が出てきた。
ブロンズ色の柔らかな巻き毛の18,9歳の女性だ。
柔らかな笑顔で、私と主人を迎えた。
私は彼女に「マッサお嬢様」と声を掛けた。
このときだけ、少し嬉しいような気持ちになった。
 
また場面が変わり、激しく水の流れる水路のある地下道を歩いていた。
先ほどのマッサだろうか、女性の手を引いて歩いている。
そこで、私は彼女を抱いた。
そうしながら、両手で彼女の首を絞めた。
両親指を重ねて、彼女の首にゆっくりと圧力をかけると、
うっとりとしたような表情に変わって行った。
私は、とても気持ちいい、と感じた。
彼女はそのまま死んだらしい。
その体を、私は水路に投げ捨てた。
簡単に死んでしまった、あっけない、と感じたが
悲しみも罪悪感もなく、「じゃあ、帰るか」ぐらいのことを思っていた。
 
 
なんだか怖い人物だが、あの石畳の広場に執着していた感じがあった。
何が起こっても、感情が強く揺さぶられるということは殆どなかった。