レイバン・ガーデンフィールド

通り抜けたのは、上部がアーチになった四角い鏡だった。
かまぼこの断面を伸ばしたような感じ。
茶色い木の額が付いていて、上部で二匹の蛇が絡んで向かい合っていた。
 
足元を見ると、茶色い革靴。
七分丈の黒いズボン。
私は、金髪で坊ちゃん刈りだ。
8〜10歳と言ったところだろう。
名前を聞くと、ガーデンフィールド、レイバン(レイバーンかも)・ガーデンフィールド
と返事をしてくれた。
家は結構裕福だったのかもしれない。
小奇麗な身なりをしていて、家は立派なお屋敷のようだった。
とても明るい、光に満ちたイメージがある。
 
私は庭に出ていた。
前を見ると、グレイハウンドのような犬が、
縦に真っ二つにされて転がっていた。
断面が真っ赤になっている。
犬の名前は、ジョンとかそんな感じだった。
犬の向こう側に、誰かが立っているような感じがあったが、わからない。
私は一瞬で血の気が引いた。
恐ろしさと悲しさと驚きが一度に降りかかったようになり、
後ろを振り返った。そこに母がいるのを知っていたから。
その母は、右手に日傘を持った桜色のドレス、小さな帽子を被った姿で
顔が、潰れていた。
そして、なおも立っていた。
顔は殴られつぶされたか、銃で打たれたかしてぐちゃぐちゃに潰れて真っ赤になっていた。
目も口も鼻もわからない。
母は、その姿のまま、非常にゆっくりと仰向けに倒れた。
その右奥に、妹らしき少女が蒼白になって両手を口に当て、立ち尽くしていた。
私は、頭が真っ白になってその場に転んだようになった。
するとすぐ、誰かにベルトを捕まれて拾い上げられた。
私は叫び声も出なかった。
黒い布で目隠しと猿轡をされた。
馬に乗った人物に抱え上げられたことは分かった。
 
次の場面は、薄暗い石造りの牢の中だった。
私はもう青年になっていた。
私は捕らえられ、そのままずっと何年も牢獄で生活しているようだった。
その牢は一人部屋で、鉄格子のはめられた窓が付いており、ガラスはない。
窓からは庭か、森のようなものが見えた。
視界からして、牢は塔状であろう。実際壁もゆるいアーチを描いていた。
牢の扉は木戸だった。部屋には机と椅子があったのは覚えている。
私は髪を一度も切らなかったようで、幼い頃のままの金髪が腰にまで来ていた。
それを、肩の辺りで赤いベルベットの布でひとつ結びにしていた。
割と身奇麗にしていたような感じがある。
また、結構見目の良い青年になっていたようだ。
私は時折外を見て、鳥や人を眺め、外にいる自由をうらやんでいた。
薄暗い牢に対して、窓の外はいつも光に満ちているようだった。
牢獄の生活では、8畳ほどの部屋から一歩も出られなかった。
拷問されたというような記憶はない。
また、自分自身が何故投獄されているのかはよく分からなかった。
おそらく両親か、一族の問題でのことだったのだろう。
 
扉を開けて、女性が入ってきた。
彼女は果物をかごに入れて持ってきた。
若い女性だ。私と同じくらいの年だ。
黄色い果物を左手でひとつ取ると、自分の顔の傍に持ち上げて、私に微笑んだ。
今日は果物よ、とでも言うようなしぐさだった。
彼女を私はミミィと呼んでいた。
またあるとき、ミミィは私に「あなたには白いストッキング(靴下のことか?)が似合うと思うわ」と言ったりしていた。
仲が良かったらしい。
囚人の世話役として仕事をしていたようだ。
 
ある日、男性が私のところに来て
牢獄のある塔が取り壊されることになったことを告げた。
彼が言うには、私は国外に出るか、ここで処刑されることを選ばなければならないらしい。
この話を、部屋の端でミミィが聞いていた。寂しそうな顔をしていた。
国外に出る不安もあったが、ここで殺されるのも・・・と考えていた。
しかし、今のこの国から去らなければならないことに変わりはない。
私は、国外に出よう、と決めた。
 
その後のことは判らない。妹らしい少女のことも分からなかった。