1834年ジョーンズ・ジェセット・ジェイコブス

足元を見ると、黒い革靴。
ズボンの上に白い被り物を着ている。
手を見ると、年をとった男性のものだった。
厚めに付いた張りのない柔らかい肉が骨を覆っている。
思わず、頬を触ると、重力に負けて下に落ちようとしているように
ゆるく、垂れ下がっていた。
やや肥満気味かもしれない。
私は白人の男性だった。
年は、60を越えているだろう。
80には成っていないだろう。
周りを見ると、薄暗い教会の中だった。
非常に立派で、信者が座るための長椅子が三行、視界にあるだけでも八列はあり
天井は3階建ての一軒家がすっぽり入るほど高い。
自分の後ろにも、長椅子の列は連なっている印象がある。
奥にはパイプオルガンの巨大なパイプが天に伸びている。
中央に五段の階段があり、低い舞台のようになっている。
右側には、説教をするための台のようなものが見える。
教会には誰も居らず、ただ、静かだ。
私の名前はジョーンズ・ジェセット・ジェイコブズ。
1834年、私の職業はカトリックの司祭だ。
 
場面が変わり、私は説教台に立っている。
正面に十字架の刺繍がされた、背の高い帽子を被っている。
沢山の信者が集まっている。
私は彼らに愛を説いている。
背後に、天使の加護があることを感じている。
私は、神に励まされてここに立っていると感じる。
 
私の前に、一人の女性がいる。
ぼろを纏っている。
対して、自分は余りにも身綺麗だと感じる。
彼女は必死に訴えている。
「司祭様、司祭様!私の貧しさも、神の試練だというのですか。
私も神に愛されていると仰るのですか」
 
私は15,6歳の少年だ。
神学校の生徒らしい。
大人しく、成績も良かったと感じた。
みんなにはジェイと呼ばれていた。
私の目の前に、金髪で緑の目の少年が立っている。
彼はおそらく同級生だ。
しっかりと右手に、聖書を抱えている。
厳しい目で、私を見据えている。
「君には決して、神の愛はわからない」
と言った。
私は、彼を否定できなかった。
 
場面が変わり、また、先ほどの少年と話している。
今度は彼と並んで話している。
「でも、迷い続ける君だからこそ
迷う人々の前に立つことになるのかもしれない」
と、彼は言った。
私はどこかの教会の神父になり、いずれ司祭になる立場だったようだ。
彼は、小さな教会で神父になったようだ。
しかし、神学校を出てから会うことはなかった。
私は、彼を尊敬していた。
神父として、彼を越えることは生涯ないと、悟っていた。
彼の言葉を私は生涯忘れなかった。
迷うとき、若き日の彼の姿が私の前に現れた。
 
また場面が変わり、私は13,4歳の少年だった。
金色の髪の少女が左側に座っていて、私に微笑んだ。
私たちはキスをしようとした。
けれど、彼女に触れる直前、私は逃げ出した。
初恋だったのだろう。
 
私はロザリオを手に、祈っていた。
初めの、老いた私だった。
鎖の部分が白い石か象牙か、陶器で作られた美しいものだ。
ロザリオにある小さな十字架に貼り付けにされたキリストの姿がある。
それを手のひらに乗せ、見つめると、心が痛んだ。
こんなにも長い間、「彼(キリスト)」は磔にされたままだ、と。
我々の罪を負った「彼」が居なくなって、もう、2千年も経つというというのに
何故、(我々の罪は)未だ消えない?
2千年という月日は短くなんかない・・・。
と、私は一人悩んでいた。
しかし、背後には必ず神の加護があるはずだ、と思っていた。
背後にまた、天使の存在を感じていた。
愛を与えろ、という使命を感じた。
そして、天使のものか、私の気が触れたのか、天使の声を聞いた。
「まだ君は、愛がわからないの?」
と言う、少年の声だった。