丘から見下ろす子供

目の前の、茶色い馬に乗った人が私を見下ろしている。
模様の入った濃紺の袴を履いて、上は白地に藍色の直線的な模様が入っている。
髪はポニーテールのようになっていて紙で結んであり、
前髪は短く切って真ん中分けにしている。
女性だ。
後ろに後光が見えるのではというくらい輝いて見える。
どこかのお姫様だ、と私は思って見上げている。
私はといえば、粗末な草鞋を履いていて、ぼろい桜色の着物を着ている。
多分、5歳ぐらいではないだろうか。女の子だ。
全体的に薄汚い。
 
彼女は一旦馬を降りると、
私を馬に乗せて自分も私の後ろに乗った。
まもなく馬は駆け出し、どんどん丘を登っていった。
急な坂であろうと躊躇なく進む。
 
やがて丘の頂上へ付いた。
自分の住む町(村?)と田畑が見える。
私たちは木々に囲まれている。
すると、後ろに居る女性が私に語りかけた。
「見ろ、全ては美しいだろう、
全てはちっぽけに思えるだろう。
自分が大きく感じるのは、木々と同一化したからだ。
木々は常に私たちを見ている。
切られて小さな木片になっても、大きな目で私たちを見ているんだ。
お前もあそこにある小さな村の中の、さらに小さなひとつだ。
自分の世界が窮屈に感じたら、
この丘を降りていく鳥のように、風になり町を飛べばよい」
 
このとき、私は幼すぎて真意は全くわからなかった。
彼女は、まもなくどこかへ嫁に貰われていってしまったらしい。
私はといえば、そのまま大人になり、
相変わらず貧しい生活をしていたようだが、
苦しいときは彼女の言葉を思い出し、空を見上げたりしていたようだった。