723年レイ

足元は、親指を固定して他もぐるぐる巻きにするデザインの革のサンダル。
脚は、脛のちょっと脇ぐらいにずらっと縦にボタンが並んでいて、
伸びない生地のスパッツみたいなものを履いている。
その上にワンピース、マントを羽織っており、
長手袋のような手甲もつけている。
手甲も掌の下辺りからずらっとボタンがついていて、それで止める形だ。
欧米のファンタジー小説にでも出てきそうな格好だ。
私は長い金髪に近い茶色のウェーブがかった細い髪を結わずに風に流している。
年代は西暦723年、私の名前はレイという。
丘から町を見下ろしている。
見下ろす先は盆地になっていて、町が見える。
中央に教会か、寺院かわからないがドーム上の屋根に先のとがった円錐がついた
灰青色の大きな建物が見える。
それを中心に、家々が立ち並んでいるのが見えた。
その町は、私の故郷であるようだった。
傍らに茶色い馬が立っていた。馬の名はヤーンという。
ヤーンは私に首をなすりつけた。
出発をうながしているようだった。
 
場面が変わり、私は男に抱き上げられた。
顔立ち、体つきが良く、集団の先頭を率いているのは一目で判った。
黒い髪、黄色い肌。黄色人種らしい。
男は私を抱き上げ、自分とともに馬に乗せた。
すると、後ろで母の悲痛な叫び声が聞こえた。
「レイ、行かないで、行かないで!」
と何度も言っていた。
私は母を無視した。
男は母に「風の民は流れるものだ」といって私を連れ去った。
そして、彼は私に「お前は俺の行く手を示す風になれ」と言った。
 
場面が変わり、幼い私が母に民族の出自について語っていた。
「私たちは風の民と呼ばれていて、世界中いろいろなところを回っていたのよ。
けれど、風の集まり留まるこの盆地にやってきたことで、それをやめて、
この土地に長く住むようになったのよ」
私はこの話を聞いて、外の世界や自分の民族に関する興味が湧いたようだった。
 
私を連れ去った男はダルシュという名前だったようだ。
彼は、私が怖れる場所へは決して向かおうとしなかった。
「風の民は旅の守り神になることが出来、間違った場所へは決して導かない」
と思われていたようだった。
ダルシュは旅のお守りとして、風の民である私を手に入れたようだった。
私はやがて彼の妻になり、子を産んだ。
彼の集団はいわゆる何でも屋で、傭兵もすれば運び屋もやっていた。
時折人や金品をさらって行くこともあったようだった。
 
やがてダルシュが死んだとき、私は50歳ぐらいだったようだ。
ダルシュが死んだことで、私は集団の主人になった。
子供たちも大きくなり、その子供たちが死ぬような危険のある仕事を続けるのはもう嫌だった。
また、時折強盗のようなことをする集団であり続ければ、いつか集団ごと殺されてしまったりすることだろうと感じていた。
「もう、仕事を変えよう」
と思った。
定住しない生活は、生涯続けたようだった。